『国文学』 特集 嫉妬考
●『国文学』平成21年7月号、第54巻10号、確か、『国文学』は、この7月号で休刊だと思う。その号が特集に〔嫉妬考〕を掲載している。『源氏』や漱石や中勘助や谷崎などの作品に描かれた〔嫉妬〕の諸相を論者が分析し、論じている。実に魅力的な特集だと思った。
●「嫉妬ハ婦人ノツネナレドモ、コレヲ下劣ノコトニシテ恥ルナリ。男子トシテ妬心アルハ女ニオトリテ下劣ノ至極ナルベシ。サレド才能アルモノヲ何トナクソネミ、善事ヲ聞キテハ、シカヲ付ケテ云ケスタグヒ、ミナ内ニ妬心有ル故ナリ。(蘐園談余)」
●男女に限る事ではなく、自分より上の者を見ると、快く思わず、相手に反感を抱き、ひがみ、ねたみ、さらにエスカレートして、影で非難する。しかも、ネチネチと執念深い、そんな性質の人間はいるものである。閑話休題。
●市川浩昭氏の「中勘助の嫉妬観」を読んで、大変教えられるところがあった。「中勘助の日記体随筆は半世紀を越える日録であり、彼の著作の大半を占める。」という。
退転また退転 懺悔また懺悔
苦闘幾十年 わづかに克ことをえたり
日に月にやうやく高し 心の欲するところにしたがってしばしば矩をこえず
浄きかな浄きかな まことに浄きかな
喜びつくることなし この道の道かあらぬかはしらねども
これは、四十代の中の詩だという。どこまでも、自分の思いに忠実に生き、複雑な人間関係と、それぞれの心情など、直面する対象に誠実に向き合っている作者の姿が浮かぶ。私は、清々しい論文に出会えた。