如儡子の酒田と『省艸印譜』

如儡子の生れた、出羽の国、酒田に関して、もう1つ大きな出会いがあった。大学を出た頃に、池袋で開かれていた池袋土曜会という、魅力的な会に参加した。大橋図書館などで開催されていた、森銑三氏の主宰された三古会に似ていた。何の目的もない会員が、第三土曜日に集まる。学閥も閨閥も無く、職業もバラバラ。ただ、ひとつ、共通している点は、各自が何かに取り憑かれている、ということだったかも知れない。今、流行っている、NHKの熱中人に似ていた。40年間以上も続いていたが、中心だった大久保さんが他界されて、消滅した。

●その中の1人に、冨樫省艸という篆刻家がいた。本名は信雄といい、酒田の出身であった。年齢的には大先輩で、戦争の経験があり、大久保さんの親友であった。冨樫さんは、漢籍の世界に深く通じていて、厳しい処世観の持ち主で、一見、近寄りがたい方だった。しかし、5年、10年とお会いしている内に、私が酒田の武将・斎藤筑後守の研究をしている事から、少しずつ親しくなり、富樫さんの篆刻作品を拝見させて頂けるようになった。

●平成4年、池袋土曜会の有志は、「省艸印譜刊行会」を設立して、『省艸印譜』を刊行することになった。冨樫さんに重い腰を上げてもらって、慎重に計画を立てた。明治の頃にも、三村竹清などという粋人がいて、見事な印譜集を遺しているが、冨樫さんの印譜集もきっと、後世に伝わって、多くの人たちを楽しませるものになるだろうと思った。

●収録する印影は厳選して、144点、印は中国、西玲印社の印泥で和紙に手押し。製本も和装で、匡郭・丁付・題簽も全て木版刷。印文は、活版印刷。限定30部で、平成4年(1992)12月12日に発行した。寄贈先は、国会図書館都立中央図書館東京芸大・武蔵野美大多摩美大・東大・京大・早稲田・慶応・明治・法政・立教・昭和女子などの各図書館である。私は、第5号を頂いて保存している。

■■『省艸印譜』帙

■■表紙 題簽 木版刷 和綴

■■扉 活版印刷

■■目次

■1丁表 1「虚己」38ミリ×38ミリ

■1丁裏 2「不忻世語楽在正論」縦44ミリ×横30ミリ

■2丁表
 3「冬」縦22ミリ×横12ミリ
 4「大音声無」25ミリ×25ミリ
 5「他山之石」23ミリ×23ミリ
 6「心々」縦8ミリ×横10ミリ

■2丁裏
 7「四面楚歌」24ミリ×24ミリ
 8「不飛不鳴」21ミリ×21ミリ
 9「南船北馬」24ミリ×24ミリ
 10「漸至佳境」縦25ミリ×横24ミリ

■3丁表
 11「前身胡蝶」21ミリ×21ミリ
 12「行雲流水」20ミリ×20ミリ
 13「尋水望山」22ミリ×22ミリ
 14「何日是帰年」22ミリ×22ミリ


以下、折々 追加して紹介する、