影印本・2

●私が大学生だった頃は複写機がなかった。古典などの原本は、書写か模写か、カメラ複写か、建築で使う青焼きなどの方法で収集していた。ゼロックス日本橋のある会社に導入された時は、小躍りして駆けつけた。日比谷図書館の複写も陰画時代もあった。それが、今はデジカメの画像を送信できるようになった。

●古典の原本も影印で出版されるようになり、翻刻よりも便利な点もある。影印本でも印刷の時、中間調まで表現できる網版使用のものと、白黒表現で中間調をカットする方法がある。原本の清濁や濃淡を見るためには、網版使用の方が正確である。いずれの方法を採用するか、原本の状態で決めているのであろう。網版使用でも、網の線数で表現密度が異なる。印刷する用紙が新聞・雑誌のようにラフなものか、書籍用紙か、コート・アートかによっても線数が異なる。古典の複製では、勉誠社の『近世文学資料類従』が優れた印刷だった。

●『近世文学資料類従』は横山重先生と前田金五郎先生が、勉誠社の複写技術と連携して企画したもので、内容的にも技術的にも画期的な出版だった。私は、仮名草子関係では、最初にお声をかけて頂くと言う御配慮を賜った。これは光栄なことであった。『浮世はなし』『明心宝鑑』『新可笑記』『可笑記評判』『江戸雀』を担当させて頂いた。書誌解題は全力で執筆し、横山先生から評価して貰った事は忘れられない。しかし、今から思えば反省すべき点もある。

■■『明心宝鑑』昭和47年(1972)8月20日、勉誠社発行
  底本 長澤規矩也先生所蔵本 
  発行後、中村幸彦先生から、巻頭第1丁表 小口上下の折れ曲がりは、キチンと直してから複写するように、と注意された。