「近世文藝の輝き」展(早稲田大学)

●16日・17日と、日本近世文学会春季大会が早稲田大学で開催された。16日は早朝から家を出て早稲田へ向かった。大会は午後であるが、同時開催中の「近世文藝の輝き」展を拝見したかったからである。この近世貴重書展では、全142点というが、さすがに早稲田大学らしい貴重な資料が展示されていた。

●私が、まず、目を見張ったのは、柱の所に附録のような体裁で展示されていた、「漆山天童日本小説年表カード」であった。私達は、昭和4年刊行の山崎麓編纂『日本小説書目年表』には、長年、多大の学恩を蒙ってきたが、この年表の例言に、漆山天童氏のカードを参照したと記されている。そのカードを、今、見ることができたのである。小型のカードに丁寧に書き込まれた文字、玉英堂書店の袋に入れられたカード、パソコン全盛の現在の研究者にはわからない苦労が一杯あったと思われる。この1点を見ただけでも、今日は有り難かった。

●「漆山天童旧蔵資料」は、平成12年(2000)5月、天童令嬢遠藤文子氏から早稲田大学図書館に寄贈された由。私は、昭和61年(1986)に上田秋成の『桜山本 春雨物語』を出したが、その時に、遠藤文子氏の御配慮で、『漆山本 春雨物語』を閲覧・調査させて頂いた。その、『漆山本 春雨物語』が展示されていて、説明には、「文化五年本といわれる桜山文庫本からの転写本。」とあった。秋成の『春雨物語』のテキストの位置づけも、時間と共に定着してゆく様を見て、当時、ただ、秋成のために、と死に物狂いで取り組んだ私の作業も、ムダではなかったと思い、学問の世界の清々しさを感じた。実りのある、輝きを放つ展覧会であった。

●『桜山本 春雨物語』を出した時、原本の所蔵者への感謝をこめて、パッセ・カルトンの特装本3冊を安井康子氏に依頼して造った。台紙の説明は3部のみの印刷。第1号は、鹿島則幸氏に寄贈し、2号・3号は私が保存している。

■■『桜山本 春雨物語』(昭和61年2月25日、勉誠社発行)
  右→市販本。中→特装本第2号。左→特装本第3号。

■■特装本に入れられた『桜山本 春雨物語』の原本の表紙


■■特装本に入れられた、桜山文庫の収集者・鹿島則文。神宮皇学館館長時代

■■特装本に入れられた、桜山文庫書庫前の、鹿島則幸氏夫妻。昭和59年9月