「涙は斯道に唯一のたから」

●茂原図市立書館の『諸家書簡集(二)――古文書講座の記録――』に収録された、樋口一葉の書簡は友人・野々宮菊子宛のものであろうか。

「過日は御光来被遊候よしに候所折あしき不在にて拝姿を得す残念に存候・・・」と書きはじめて。「御詠草返上大延引御ゆるし下さるへく候 夏子/菊子様 御前」と結んでいる。

「・・・御歌あまた拝見、これは我か畠にはあらねはよしあしは存し申さす候へとも、誠にかく思し給ひけんとおもひやらるること多く感一しほふかく候、かかるさかひに有てこそ何事も発達いたすものなれ、つとめ給はは誠の御歌も出来ぬへし、おもしろつくにて言ふとなおほし給ひそ、涙は斯道に唯一のたからに御座候、申すまては無けれとも東西古今に渡りて英雄豪傑さては大家名流のあとをとひ給へ、いつれも涙の後の出来事に御座候はすや、・・・」

●一葉の歌への思いがよく表れている。面白ずくではなく、自分の感情を大切にしてこそ、良い歌や文章は生れるのだろう。涙の質は問われるにしても、至言なり。

■■樋口一葉 書簡 1

■■樋口一葉 書簡 2