師説の批判

●広嶋進氏の労作『西鶴新解 色恋と武道の世界』(2009年3月10日、ぺりかん社発行、定価6000円+税)が刊行された。『西鶴探求 町人物の世界』(平成16年発行)の続編で、本書は好色物と武家物を中心にしている。一部は、博士(文学)の学位論文が含まれている。私は、早稲田大学の『近世文芸 研究と評論』の定期購読者でもあるから、同誌に掲載された広嶋氏の論文は、以前から読んでいて、多くの示唆を与えられていた。

●本書の著者は「あとがき」で「・・・振り返ってみると、私の西鶴研究は谷脇先生の研究の発展あるいは批判的継承という姿勢で進められてきた。谷脇先生自身は、師である暉峻康隆先生の学説との対決・超克という立場を常に取り続けてこられた。・・・」と述べられている。

●かつて、昭和女子大学の職場の先輩であった、箕輪氏が近世文学会で研究発表した時、師の暉峻康隆先生から厳しい意見が出されて驚いた経験がある。『近世文芸 研究と評論』の中でも、お互いに批判し合った論文がしばしば見られた。研究であるから、異説に対する批判は当然であるが、同学の間では、意外に少ない。それだけ、早稲田大学の近世文学研究者は多く、活発な活動をしているという事にもなる。

●私も、恩師の重友先生の説を批判したことがある。それは大学4年の時の「吉備津の釜」試論であった。ただし、これはボツになったので、日の目はみなかった。私が、大学院へ進み、仮名草子ではなしに、上田秋成を専攻していたならば、多くの点で、師説に導かれながらも、師説への批判も提出していたと思う。学問が科学である以上、当然のことと思う。

●その意味で、谷脇先生には、以前から多くの事をお教え頂き、尊敬してきた。広嶋氏の研究にも、心からの敬意を表す。
■本書の詳細目次→http://www.ksskbg.com/sonota/shin.htm

■■広嶋進氏『西鶴新解 色恋と武道の世界』