『可笑記評判』 古書価 2000円

●本日、昭和45年12月25日、近世初期文芸研究会発行の『可笑記評判』を日本書房から2000円で購入した。特別安価でラッキーであった。古書価は発売している古書店の自由評価であるから価格はマチマチである。先日のアマゾンでは170000円で出ていた。現在、渥美書房では10500円である。日本書房は、もはやこの本の価値は無い、と評価したのであろう。もっとも、今日届いた古書店の目録では、岩波の日本古典文学大系、全102巻の揃いが、3万円ちょっとであった。一冊300円である。

●この本は、私が出した最初のもので、タイプで印字した孔版印刷、製本は謡本専門の店であった。原価は800円だった。122部発行し、主要図書館と仮名草子研究者に寄贈した。本日購入した本は、背に毛筆で「可笑記評判」と見事な字体で書かれている。私が差し上げた何方かが書き込まれて保存してくれたものであろう。おそらく、御本人は御他界されたかで、処分されたのであろう。38年前の本である。

●私は、今、『浅井了意全集』第3巻に収録される『可笑記評判』の原稿を執筆中である。この作品は、昭和52年に複製本が『近世文学資料類従』に収録され、1995年には『仮名草子集成』に翻刻された。全て私が解説を書き、校訂もした。こんなに深い縁のある作品も珍しい。

●この本の底本は東京大学附属図書館所蔵本で、表紙左上にある題簽(だいせん)は東大本を模写して、専門家にトレースしてもらった。製本は神保町の和本専門の川嶋製本で、御主人は、本文紙を1枚1枚コロシテ製本すると言っていた。恐ろしい用語であるが、和紙のように軟らかくすることだと教えてくれた。

●この本は、仮名草子作者の中では代表的な浅井了意の著作で、私としては、最初の古典翻刻の仕事であった。全10巻・合計598丁、1196頁という膨大な作品であり、やや無謀な取り組みであった。今から思えば、大変ではあったが、私の研究の原点にもなった本である。

●この本は、如儡子の『可笑記』本文は収録されていない。了意の批評の部分だけである。当時の研究水準では、これで意義はあった。その代わり、巻末に固有名詞の索引がある。これは、研究者にとっては便利だろう。

●恩師・重友毅先生は、翌年8月28日に私学会館で出版記念会を開いて下さった。席上、重友先生の他、久松潜一先生・長澤規矩也先生も温かいお言葉を賜った。

■1970年12月25日発行 『可笑記評判』