近世末・近代の都市居住性に関する研究

●今日、ネット検索していたら、このようなタイトルの論文に出合った。この論文は、早稲田大学大学院後期博士課程に在学し、建築学科助手の真鍋怜子氏等が、住総研、研究論文集、第39号、2012年版に発表したもの。この論文のキーワード・10の中に『井関隆子日記』が入っている。
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研究 No. 1108
近世末・近代の都市居住性に関する研究−東京都墨田区民家の地域的特質と変遷を通して−

主査 真鍋 怜子*1
委員 中川 武*2, 小岩 正樹*3

本研究は,「奥」という概念の再考を動機とし,土間や外部との接点および家族団欒の場と,台所作業場の平面的な関係性を通して,
近世末から近代への移行期の夫人の居場所の変遷を捉えることを目的とする。幕末期の旗本夫人・井関隆子による日記を分析し,家族
個人間のプライバシーの時代的萌芽を指摘した。墨田区民家においては,台所の空間的な「奥」を深化させる一方,家事労働軽減が目
指されても,家庭の中心的な場に一体化されることはなかった。それにより,中廊下型でも居間中心型でもない「江戸期農家の土間・
台所の縮小再編型」という特有の住居平面構成を持ち,夫人の新たな居場所が形成されたと見ることのできる可能性を示した。
キーワード: 1)都市独立住居, 2)東京都墨田区民家, 3)江戸・東京, 4)土間,5)台所,
6)奥性, 7)井関隆子日記, 8)家族, 9)プライバシー, 10)夫人の居場所
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2.4 幕末期の旗本夫人による「井関隆子日記」に見る家族観およびプライバシーの時代的萌芽
近代に入り,従来の日本家屋にはない錠付きの玄関が普及し,また壁面によって区切られた個室によって通り抜けを完全に遮断することもなされた。家長制度からの移行もあり,父権の意味が変化し,家族として対等に接することの重要性を多くの家庭において考えられるようになった。近代的な社会背景に注目されがちであるが,戦後における断絶よりももう少し穏やかな移行が江戸から明治にはあったかもしれない。幕末期の旗本夫人である井関隆子(1785〜1844)によって56〜60 歳の間に記された日記は,自分自身の置かれている家庭生活を含め天
保期の社会的な出来事を多く記したものである。隆子は,20 歳の頃に大番組の松波源右衛門と結婚,間もなく離婚し,30 歳の頃に納戸組頭である井関親興の後妻として井関家へ嫁いだ。13 年後に夫の親興が没し,家督を先妻の子の親経が継いだことによって,家庭の切り盛りも親経の妻が引き継ぎ,隆子は夫との間に子がいなかったことから血縁なき家族との生活を送るようになったが,それ故に浮彫りにされる近代的自我や家族観が抽出される。
  【以下省略】
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●優れた文学は、描写も正確ゆえ、歴史的な参考資料にもなり得る。時代の証言として活用されることもある。
■近世末・近代の都市居住性に関する研究