『日本文学全集』 全30巻 刊行

●今日の朝日新聞に、河出書房新社の半5段の広告で、『日本文学全集』が出ていた。全30巻のうち、12巻が古典。殆ど新訳で、訳者もフレッシュである。『源氏物語』の訳者は角田光代氏、これは期待できそうである。久々の日本文学全集の刊行はうれしい。また、池澤夏樹氏の刊行の辞も良い。
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日本文学全集 宣言 池澤夏樹
 はるかな昔、大陸の東・大洋の西に連なる島々に周囲各地から人が渡ってきた。彼らは混じり合い、やがて日本語という一つの言葉を用いて生活を営むようになった。
 この言葉で神々に祈り、互いに考えを述べ、思いを語り、感情を伝えた。詩が生まれ、物語が紡がれ、文字を得て紙に書かれて残るようになった。
 その堆積が日本文学である。
 特徴の第一はまず歴史が長いこと。千三百年に亘って一つの言語によって途切れることなく書き継がれた文学は他に少ない。
 第二は恋を主題とするものが多いこと。われわれは文章によって人間いかに生くべきかを説く一方で、何よりもまず恋を語ろうとした。
 第三は異文化を受け入れて我がものとしてきたこと。ある時期までは中国文明の、ある時期から後は西欧の文明によって文学を更新した。
 今の日本はまちがいなく変革期である。島国であることは国民国家形成に有利に働いたが、世界 ぜんたいで国民国家というシステムは衰退している。その時期に日本人とは何者であるかを問うのは意義のあることだろう。
 その手がかりが文学。なぜならばわれわれは哲学よりも科学よりも神学よりも、文学に長けた民であったから。
 しかしこれはお勉強ではない。
 権威ある文学の殿堂に参拝するのではなく、友人として恋人として隣人としての過去の人たちに会いに行く。
 書かれた時の同時代の読者と同じ位置で読むために古典は現代の文章に訳す。当代の詩人・作家の手によってわれわれの普段の言葉づかいに移したものを用意する。
 その一方で明治以降の文学の激浪に身を投じる。厳選した作品に共感し、反発し、興奮する。
 私は誰か? 日本文学はそれを知る素材である。
                        池澤夏樹
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河出書房新社は、2007年11月に刊行した『世界文学全集』全24巻が累計40万部を実売したという。『日本文学全集』も書店を通じて学校・公共図書館、個人向けに全巻予約を促進し、市場を喚起させる計画だという。
●いずれにしても、文学低迷、マンガ、ライトノベルがはばを利かせている今、池澤氏の個人編集とは言え、日本文学の全集が刊行されることは嬉しい。特設サイトに、思わず、イイネをしてコメントしてしまった。日本文学は、凄いのだ。
朝日新聞の広告