新幹線で泣く子供

●今朝、朝食をしながら、テレビを見ていたら、新幹線の中で、赤ちゃんが泣き出し、隣席の女性が「うるせーなっ」と言いながら舌打ちした・・・、というのを発端にして、あるブログが炎上したと伝えていた。番組で一般人にアンケートをとったところ、泣いても仕方ないというのが 85%、いや、良くないというのが 15%だったという。誰かは睡眠薬を飲ませればいい、と言ったらしい。私は、愛犬トラが22年生きて老化した最晩年、夜の泣声に閉口し、犬猫病院へ行って睡眠薬を下さい、とお願いしたら、もっと犬を見守ってあげなさい、と獣医にたしなめられたことがある。
●子供の泣声には、母親も、周りの人々も、頭を悩ます。それは、今も昔も変わらない。旗本の主婦、井関隆子は、こんなことを書いている。

天保11年8月10日
「・・・大方したしき、うときによらず、幼きものは、らうたげに見ゆれど、少しおよづけたるは、いさかひさわぎ、制すれどきかず。人の子供など立ちまじれれば、過ちせむかと心やすからず。はた、いふかひなきは、汚きもの、所もわかずし散らし、腹立ち泣きたる、いと心づきなし。あるは親しかるべき稚児などの、面嫌ひして、そば目に、見おこせつつ、いたく泣きさわぐを、母は、なおらうたしと思ひて、とかく、すかし慰めたる、その親さへぞ、にくきや。・・・」

●井関隆子は、泣く子にも、その親にも厳しい。この条に関して、東北大学の新田孝子氏は、次のように批評している。

「隆子が幼児について、このように記述したのは、極めて当然のことであった。彼女が読者を想定して修正するといふ操作を行はなかっただけのことである。ここに、隆子の日記における自己の思念に忠実な姿勢を認めて誤りはないであらう。」

●文学において、対象に対しても、自分自身の心情に対しても、誠実に向き合う姿勢は、非常に大切な要件である。隆子は85%ではなく、15%の立場から、泣きじゃくる子供、いたずらをする子供にも、その親にも、自分の素直な感覚で反応しているのである。
■『井関隆子日記』天保11年8月10日の条