“新展” 『あかね』 発行

●短歌雑誌『あかね』第29巻 第3号(2013年5月)が発行された。第2号に続く第3号であるが、編集発行体制には大きな変化がある。長い間、この短歌雑誌を編集発行されてきた若宮貞次先生が、その任を退き、先生の御指導を受けて、ともに作歌活動を続けてこられた、同人の方々が、この伝統を継承して、見事に発行を成し遂げた。
●新体制は、編集部代表・木村温子氏を初め、武田輝久子・西山澄子・上村玲子・澤田加津子・田畑靖子・代田由紀の各氏が当られた。「編集所便」をみても、活気が溢れている。見事な継承だと思う。
●巻頭には、五味保義先生の「東大泉」と題する4首が掲載された。
 楢くぬぎただひとときに芽ぶき立つ永き春日をひとり見るかも
 芽ぶき立つ楢原なびけ吹く嵐春逝かむとする光ただよふ
 嵐のかぜおとろへて午すぎむ木草のにほひみなぎるものを
 四月尽きむ今日の光か遙かなる松の木の間にかがやくは何
                    歌集『島山』より
●この号から作品の配列を五十音順にして、アフチ集、イチヰ集、タチバナ集、ユズリハ集、寒葵集、若萌集 とし、集の名前は若宮先生の庭の万葉植物に因んだという。若萌集は小学生・中学生・高校生の作品を収める。幼少の頃から歌の心へ誘うという編集姿勢のあらわれであろう。すばらしい。
若宮貞次先生も規定によって、他の同人と同じ8首を発表された。
 万葉の木草の庭にあそびたる老の十有五年なりにし
 十余年親しみきたる庭木々を吾が伐りて除かむえこひいきなく
 憶良らの歌のこころを奥にして茂るあふちを伐る日となのぬ
 椅子に倚り冊子づくりにかまけたるしるしと言はむ腰の腫瘍は
 聲明を唱へながらに朝より臥せるベッドに清しきこころ
●編集を継承された、木村温子氏は、その思いを歌に詠まれた。
 この朝郵便受けに貼り出しぬ「あかね発行所」の名称書きて
 生かされて生きてゆかむと強くおもふこの重責をわが受けとめて
 眠られぬままに闇に書き置きし文字は重なりかたむきてをり
 用をつくり先生の家に訪ねゆくあと何回のことにやあらむ
 丁寧に封筒開く一言の添え書きにわが支えられつつ
●『あかね』第29巻 第3号は、明るい。のびのびとして新しさがある。ひとりひとりの同人の歌に充実感がある。そんな風に、一読した私には感じられた。若宮先生の御著書への批評など、充実感もある。若宮先生の歌への想いは、継承されて、さらに、新境地を求めてゆくように、私には思えた。
●私は、恩師、重友毅先生から、日本文学研究会と、学術雑誌『文学研究』のことを託された時、常任委員の一人として、先生の学問の継承をいかに実現すべきか、毎日毎日、考えて研鑽に励んだ。35年前のことである。
■『あかね』第29巻 第3号