『井関隆子日記』の「天気」の記述

●真下英信氏の「音で読む『井関隆子日記』:天気の記述」(『慶應義塾女子高等学校研究紀要』第30号、2013年3月刊)が発表された。真下氏は、慶應義塾大学で、『伝クセノポン『アーテナイ人の国制』の研究』(慶應義塾大学出版会発行)で博士(史学)の学位を取得された西洋史の研究者である。氏は、これまでも優れた『井関隆子日記』の研究論文を発表してこられた。今回は、この日記の、1日1日の「天気」の描写に着目され、これを手掛かりに、この日記の特長を解明された。

●この論文は、『名月記』『江戸日記』『梅▲日記』『馬琴日記』『▲堂日暦』『桑名日記』『柏崎日記』『斎藤月岑日記』『小梅日記』『公私日記』『市川家日記』等と『井関隆子日記』を比較分析された労作である。
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「結論として、天気という極めて無機質な自然現象の記録も、日記全体に通底する豊かな抒情性と教養、自己省察の精神が満ち溢れており、隆子は感性豊かな人物であった、との主張がなされるはずである。」
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●真下氏は、このような結論をまず提出して、以下、詳細・緻密な分析・考察を重ねられる。まず、他の日記との比較を綿密に行い、『井関隆子日記』との違いを明らかにしている。続いて、隆子の「天気」の記述について、「風・雨・雪・雷・氷・日照り・雹」に関する条を検討する。
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「・・・『井関隆子日記』の天気の記述からは、現在の読者も共感出来る普遍性を持った描写、あるいは作者の心の動き、思考の動きを明瞭に読み取れる。・・・時には天気に触発されて己の内面を凝視、そこに見えた世界を天気に絡めて記述する。彼女は天気を媒介して己の心象風景を走馬灯のように浮かび上がらせる力量を持っていた。それ故、天気という客体の記述は、しばしば内省的な考察へと昇華する。これは自由闊達な気性の人のみが出来る発想である。」
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●ほんの1部分の引用に止めるが、『井関隆子日記』は、また、平成の世に、素晴らしい読者・研究者に出会えたことになる。

■真下英信氏「音で読む『井関隆子日記』:天気の記述」
  『慶應義塾女子高等学校研究紀要』第30号(2013年3月刊)