『円朝全集』 第2巻 発行

●『円朝全集』第2巻が発行された(2013年1月29日、岩波書店発行、定価8400円+税)。編集委員は、倉田喜弘・清水康行・十川信介延広真治。この巻の本文校訂・注解・後記は、吉田弥生・菊池眞一。収録作品は、『西洋人情話 英国孝子ジョージスミス伝』『安中草三伝 後開榛名の梅が香』で、前者が90頁、後者が478頁と『安中草三伝・・・』が大長編で、菊池氏の担当。

●落語であるから、話し言葉で書かれている。しかも、総ルビに近い本文である。早速、『安中草三伝・・・』の後半の『後開榛名梅ケ香』(四十一)(345頁)を読んでみた。実に面白い。

 草「御免ねへ、真平御免ねへ
 九「何んだヱ
 草「イヤ九平さん、お初にお目に懸かります。

こんな具合で、漢字には、殆ど振り仮名つきである。落語だから、話し言葉であるのは当然であが、これが、速記で文章化されている。冒頭に「三遊亭円朝 口演/酒井昇造 筆記」とある所以。

●総ルビといい、話し言葉の文章化といい、明治維新の啓蒙期の産物である。思い出せば、近世初期の仮名草子も、本文は仮名と漢字交じりであるが、漢字の殆どに振り仮名が施されている。日本歴史の中での、二大啓蒙期、近世初期と明治維新。文章化された落語のテキストは、仮名草子のテキストに通じる。啓蒙期特有の文芸であろう。

●校訂・注解の担当者のご苦労は、想像してみても大変だったと思う。足掛け4年のお仕事だったという。本文作成・校正には、PDFファイルを拡大して作業をされたという。注解にもパソコンを活用したという。図書館で文献を調べて原稿を書いた時代からスタイルが変化している。昔日の感がある。

●この『円朝全集』の「本文および注解について」という校訂基準は注目したい。幕末維新の出版界は、江戸時代の木版と西洋印刷技術が交差する時代であり、この時代の活字には、特異なものがある。その対応の基準を示しており、今後の本文校訂の参考になる。その点でも有難い。

★本書の詳細 → http://www.ksskbg.com/sonota/shin261.htm

■『円朝全集』第2巻