国語辞典 づくりの魅力

●学者芸人の、サンキュータツオ氏は、国語辞典には「用例の三省堂、軌範の岩波書店、という編集哲学の2大潮流があります。」と言われる。その通りだと思う。『岩波 国語辞典』(1963初版)と『新明解国語辞典』(1972初版)
は対照的である。過日購入した『新明解国語辞典』第7版のケースのオビには「日本で一番売れている国語辞典!」とあった。国語辞典の語意説明は、どの辞典も共通である。言葉の意味が変わってはコマルからである。〔著〕では無く〔編〕とされる所以である。従って、出版社は、辞典に盛り込むアイデアに真剣に取り組んで、個別化・差別化を図る。

●50万、70万とも言われる日本語の中から5万語を選んで収録する。基本語、流行語、外来語、専門用語、隠語、この割合をどうするか。流行語や外来語は、新しさはあるが、同時に古さに直結する。国語辞典に、一字漢字を何字収録するか。200万の用例からの集計した異なり字数は何字か。そのようなデータを活用する。活きた辞典を目指すには、書籍以外に、雑誌・新聞の用例も参考になる。

●総頁を決める。1056頁で980円という定価設定では、どのような製本にすればよいか。辞典は16頁では印刷しない。32頁の3倍で印刷する。年間20万部前後発行するので、1度に1万、2万部印刷する。960頁の次は1056頁である。用紙も既成品ではなく、特漉きである。写真も図版も多いので、輪転機のスピードで紙粉が飛んでは困る。製版も日本一を目指すような技術の製版所が望ましい。オフセット印刷も印刷の仕上がりは当然として、両面のズレがあっては良くない。製本も32頁折れる製本所でなければ困る。

●私が責任者として担当した辞典の編集費は、1億円だった。今から35年前である。収録語数、語意、附録、デザイン、製紙、組版、製版、印刷、製本などなど、もちろん辞典部の皆さんと協議して進行はしたが、最終決定は責任者の私である。誠に充実した年月であった。大量に発行され、多くの読者のお役に立つ、そう考えると、寝る目も惜しんで完成させた。

■【1】『岩波 国語辞典』(1963初版)

■【2】『新明解国語辞典』(1972初版)

■【3】私の担当した実用辞典

■【3】の収録一字漢字の索引