テキストを彫刻する人・横山重

●このところ、寝ても覚めても横山重先生のことを思っている。横山先生には、昭和42年頃、前田金五郎先生に紹介して頂き、初めてお会いした。それから、先生が御他界なさるまで、様々な御指導を賜った。いつか、日にちは忘れたけれど、朝日新聞に、百目鬼恭三氏が、古典テキストを彫刻する学者として、横山先生のことを記していたのが忘れられない。

■『書物捜索』昭和53年11月10日、角川書店発行
『書物捜索』の著者は、類稀な蔵書家であり、愛書家だ。ただ、世間の書痴の徒との違いといえば、その等身大の業績だろう。神道集・本地物から全室町物語の本文化へ。続いて琉球神道記・琉球史料。さらに連動的に説経・古浄瑠璃へと全活字化の成果を生みつつある。活字化を了した本文千余点。驚くべき精力である。まさに、「正しい本文以前に正しい研究なし」という年来の信念の見事な実践である。それらの善き底本を得るための書物捜索の旅路五十年。その間、巡り合った書物と人間への、これは、自由かつ克明な会見記である。  (貴志正造氏のオビの文章)

●貴志正造氏の、この文章に出合って、横山先生の凄さに、改めて敬意を表した。先生は、いつか、次のようなことを話して下さった。第2次世界大戦の時、若い学徒が戦場に駆り立てられている、その若者が帰ってきた時、すぐに研究できるように、しっかりした本文を作っておいたのだ。そのように申された。文学研究の基本を確実に認識して、今なすべきこと、テキストを彫刻しておられたのである。

●私は、今、横山先生との思い出、150枚を脱稿して、本当に古典研究の基本を教えられたことに感謝している。

横山重著『書物捜索』