『求めない』 生き方
●敬愛する同郷の詩人、佐野千穂子さんが、1冊の本を贈ってくれた。加島祥造氏の詩集『求めない』である。2007年に発行された詩集であるが、とても素晴らしい詩ゆえ、2冊求めて持っておられたという。そんな時、私が、研究者にとって、資料との出合いは感動モノだと、昭和女子大学の中西裕先生と加島祥造氏のエピソードを日記に紹介したのがきっかけになった。有り難いことである。
●加島氏は老子の研究でも有名で、この詩集のどこを開いても、事の真相・真理に触れている。中国の孔子も孟子も老子も荘氏もすごい。私は、近世文学研究を目指したので、これらの中国の思想家には、興味を持って、若い頃から、読んでいた。しかし、私は、「求めた」。その意味では、加島氏の詩の世界には、到底及ばない、低次元の生き方をしてきた。しかし、そんな私でも、この詩集を読むと、心が洗われる。
●私の本年の年賀状で発信した印文「無名天地之始」は、『老子』の第1章の文章である。「有名万物之母」と続く。これを素直に解釈すれば、それは老子の思想である。しかし、私はこの文章の裏に、私のプライベートなメッセージをダブらせて発信している。それは、今年、私が発表する研究物と関連することであるが、第三者には関係のないことである。その点では、大老子さまに申し訳ないと思っている。
●「求めない」生き方をした、大先達に、鹿島則文がいるし、狩野亨吉がいる。この二人の生き方に接した時、大きなショックを受けたが、私の目指した、もう1つの大きな山のように思われ、最大の敬意を捧げた。
■■加島祥造 『求めない』2007年7月3日、小学館発行
本の上の貝殻は、詩誌『黒豹』の編集発行者で詩人の、諫川正臣氏から佐野さんへプレゼントされたものである。館山の海岸で拾ったもの。