グーテンベルク 『42行聖書』 から グーグル へ

●10月19日付の朝日新聞、「お宝 発見」のコーナーに、慶應義塾大学所蔵のグーテンベルク『42行聖書』が紹介されていた。1996年(平成8年)に約8億円で購入したという。実は、私は、この本を、1988年(昭和63年)に、日本橋丸善で閲覧している。この本が、その後、慶應義塾大学に移ったのであろう。

●この丸善本は1455年頃にマインツで出版されたものであるが、これとは別に、ベルリンの国立プロイセン文化財図書館蔵本、本文・全1282ページに、表紙は、ヘッセン州立図書館蔵本を使用した複製本(フルダ表紙)が出ている。この複製本は2分冊で、1979年(昭和54年)に西ドイツから895部発行されている。

●私は、この丸善本と複製本の本文を、部分的にではあるが比較してみて、その異同に非常に興味をもった。異体字や花文字の細密画もかなり異なる。その後、慶應義塾大学図書館では、全ページを画像化して他の現存本との比較研究を進めている由である。オリジナルのデジタル化が出来て、この研究は飛躍的に進むものと思う。

●最近、ピーター・シリングスバーグ著の『グーテンベルクからグーグルへ』(2009年9月25日、慶應義塾大学出版会発行、3200円+税)という本が、明星聖子氏等によって訳され出版された。早速購入してナナメ読みしたが、実に面白い内容である。文学作品におけるテキストの問題は、私など、常に念頭において、近世文学を研究してきたが、このテキストクリティークの領域に、コンピュータが関与してきて、この研究にもあたらしい問題が発生している。「編集文献学」「書記行為」という用語も面白い。文学における言語は、所謂、一般的な言語とは異なり、作者の精神的・美学的な要素が含まれるので、十分に注意してゆくべきだろう。

■■『42行聖書』丸善本 時代のもの


■■『グーテンベルクからグーグルへ』