40年目の ゴムの木

●『可笑記』巻1の27段を読んでいたら、

「はつ秋一葉ちりそめしより、野原の虫の声ほのめき、小男鹿の音も物すごく、月の光もてりまさり、うらみがほなる、くすの下風身にしみ、もみぢにしきをさらすよそほひには、世の人、是を秋とおどろく。」

という文章に出合った。自然は、「さあ、今日から秋だよ」とは言わないけれど、桐の葉が一枚、はらりと散ると、人々は、ああ、秋だ、と思う。自然の営みとはそんなものである。というくだり。

●庭に出てみると、春先に外へ出した、“私のゴムの木”が目についた。もうそろそろ家の中へ入れるか。このゴムは、昭和46年の頃、千葉の新検見川の市街地住宅にいる頃、来る日も来る日も、幕末旗本女性の日記を校訂し、注を加えていたが、ブザーが鳴って、出てみると、おばさんが、ゴムの木を抱えて売りに来た。小さな鉢に植えられていて、確か300円か400円だったと思う。頂いて、机の上に置いて原稿を書き継いだ。

●その後、昭和52年に所沢に転居したが、ゴムの木も持って来て、こちらは寒いので、私の書斎で育てた。株分けもして、2つの鉢は妻の店に移し、そのうちの1つは、お客さんに上げたという。とにかく、40年間近く、冬は寒いので暖めてやり、夏は毎日、水遣りをしてここまで育てたので、愛着もある。

■■『可笑記寛永19年版11行本。桜山文庫

■■私と共に40年間 ゴムの木

■■ついでに、庭の花々を