谷崎源氏

●30日付の朝日新聞夕刊の文化欄に「源氏に冷たかった谷崎」の見出しで、晩年の谷崎の後述筆記をした伊吹和子氏の著書『めぐり逢った作家たち』を由里幸子氏が紹介している。

●伊吹氏は、「光源氏のことを「あんなウソつき男」は大嫌いだと、何度も谷崎からきいていた」という。また、円地文子は一度ならず「谷崎さんは源氏をお嫌いなのよね」と言ったと、竹西寛子氏のエッセーの中に出ていると由里氏は言う。

上田秋成も『源語』の各巻に歌を寄せていて、物語評論も書いているが、色好みの光には厳しい批判を加えている。しかし、紫式部が造形した物語の中の人物・光源氏の人間としての魅力を理解しないところからは、優れた現代語訳は生れないだろう。私は、大学1年の時『源氏物語』の全編を『朝日古典全書』の池田亀鑑本で読破したが、導入は現代語訳の谷崎源氏であった。だが、物語がスーッと入ってこない。そこで与謝野源氏に切り替えた。ここで、与謝野晶子の文学的力量に驚き、その魅力に惹き付けられた。谷崎に近く接してこられた伊吹氏の、今回の指摘には納得がゆく。

■■ 朝日新聞 2009年5月30日 夕刊