広末保著 『四谷怪談―悪意と笑い―』 復刊

●広末保先生の『四谷怪談―悪意と笑い―』(岩波新書)の第2刷が出た。2刷と言っても、新書ばやりの現在のように、初刷が出て追いかけるように2刷が出た訳ではない。第1刷は、1984年であり、2刷が2008年11月20日に出たのである。24年振りの復刊である。私は初刷も持っているが、2刷も購入した。オビに「ご要望にお応えして アンコール復刊」とある。名著の2刷である。実に懐かしい。

●新書、新書と書店の店頭を手軽な新書が飾っている現在の新書ではない。以前の新書は、その道を極めた著者が、その専攻分野の内容を、分かりやすく書いたものが多かった。ゆえに名著も多い。四半世紀経過しても増刷されるのであろう。その点、現在の、キワモノ新書とは質を異にしている、と私は思う。

●広末先生には、法政大学で近世文学の講義を聴いた。先生の『近松序説』などはセンを引いて熟読した。私は、学生の頃から、日文協に入って、近藤忠義や重友毅小田切秀雄西郷信綱などの本を読んでいた。近松についても、広末・近藤・重友などの先生の本で学んだ。

●かつて、私が昭和女子大の短大の国文の演習で近松を担当していた時、昭和の大学院の近世担当に広末先生が来る、というウワサが出た。私は、内心、少々困った。私が『曽根崎』などを教えた学生が、学部へ進み、大学院へ進んで広末先生に出会って、近松でも専攻したら、どうしようかと、少々困った。広末先生と私では、作品の解釈に、少し違いがあったからである。しかし、広末先生は来なかった。4月に来られたのは長谷川先生であった。内心、ホッとはしたが、反面、少しは寂しかった。

●私は、昭和52年に千葉市から所沢市へ転居した。所沢市の北中である。実は、この北中に、広末先生は前年まで居られた。前年に市川市に転居されたのである。私の主治医の斎藤先生は、広末先生の主治医でもあった。現在も、月1回健康チェックに斎藤医院へいくと、よく、広末先生の事が話題になる。斎藤先生は広末先生の著書をよく読んでおられる。

●広末先生と私は、こんな2つのすれ違いをしている。大学時代の先生の講義を思い出しながら、『四谷怪談―悪意と笑い―』第2刷を読み始めた。

■広末保著 『四谷怪談―悪意と笑い―』 第2刷