善人ナオモテ往生ヲトグ

●「善人ナオモテ往生ヲトグ。イハンヤ悪人ヲヤ。シカルヲ世ノ人ツネニイハク。悪人ナヲ往生ス。イカニイハンヤ善人ヲヤ。」これは、有名な親鸞の『歎異抄』の第三条である。ただし、これは、円智によって寛文2年(1662)に書かれた注釈書『歎異抄私記』のテキスト。悪人こそが救済を受けるのに最もふさわしいという親鸞の説くところ。これを「悪人正機説」という。

●この第三条の注釈書の中で、「悪人正機」の語が文献上最初に見られるのは、寿国という僧侶によって、元文5年(1740)に書かれた『歎異抄可笑記』であると言われている。寿国はこの注釈書を書く時、先師円智の『歎異抄私記』を参照している。それにしても、何故、この書名に「可笑記」が利用されたのであろうか。『可笑記』の研究をしている私としては、実に興味津々である。

●疑問解決のために、最初の注釈書として、稀少価値の高い『歎異抄私記』を古書店で購入した私は、何としても、この疑問を解かなければならない。

■『歎異抄私記』 円智著 寛文2年(1662)刊行